大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1171号 判決

被控訴人らは、「控訴人田中が本件三角地を含む前記三九番の二五の宅地を買い受けた当時被控訴人ら先代近江桃蔵は本件三角地とともにこれに隣接する前記三九番の一〇の宅地の一部を秋本清二から一括して賃借していたもので、右三九番の一〇の地上に登記した建物を所有していたから、被控訴人らは本件三角地についても右賃借権をもつて控訴人らに対抗できる。」旨主張するので、まずこの点について判断する。

建物の登記は、建物についての権利関係そのものを公示するために建物登記簿になされるものであつて、建物の所在する土地についての権利関係を公示するものではなく、土地の権利関係の公示は土地登記簿になさるべきものであることは改めていうまでもない。建物保護法第一条は、民法第一七七条及び第六〇五条の規定の例外として、いわゆる地震売買の弊害を防止するために、建物について登記をすることによつて不充分ながらも借地権の登記に代用させたものであり、建物を所有する借地権者の利益を保護する目的で、登記に関する一般原則を修正したものであつて、不動産物権公示の原則に対する例外をなすものである。このような例外規定は特別の事情のない限り、その文理に即して解釈することによつて、その土地について取引関係に立つ第三者の動的安全との調和を図ることができるものといわなければならない。かような観点からみると、二筆の土地が、建物の所有を目的として一括して賃貸され、建物はその中の一筆の土地の上に存在し、他の一筆の土地は空地のまま建物利用の便益に供されている場合には、右二筆の土地が賃貸借契約締結後に分筆されたものであるとか、又はその地上に登記のある建物が存在しないという理由で空地部分の一筆について対抗力が否定されるときは右建物において営まれる居住営業等に著しい損失を生ずる等右二筆の借地の一括利用が建物の利用について緊密な関係を有する特別の事情のない限り、たとえ建物は登記されていても、空地部分の一筆については建物保護法第一条の適用はなく、賃借人はその賃借権をもつて第三者に対抗することができないものと解するのを相当とする(最高裁昭和四〇年六月二九日判決、民集一九巻一、〇二七頁参照)。これを本件についてみると、控訴人田中が本件三角地を含む三九番の二五の土地を秋本清二から買い受けた当時、被控訴人ら先代近江桃蔵がその隣地である三九番の一〇の賃借土地の上に登記した建物を所有していたことは当事者間に争いがなく、右二筆の土地が秋本清二と近江桃蔵との間の前記賃貸借契約締結後に分筆されたものであると認むべきなんの証拠もない。また、……を総合すると、近江桃蔵の前記三九番の一〇の借地上の建物は、控訴人田中が本件土地を買い受けた後に増改築された建坪一三坪二合五勺、二階一二坪の木造瓦葺の普通の住宅であり、本件三角地は同建物の敷地の東南の一隅に当る場所であつて、同人は生前植木や盆栽等を愛好していたので、控訴人の買受当時も本件三角地を他の借地の空地の部分とともに庭木を植え盆栽置場等に利用していたこと、右建物の空地部分は前記増改築の結果著しく狭められたこと、本件三角地の南側には五五ないし七八センチメートルの間隔をおいて控訴会社の木造トタン葺倉庫が建てられていること、本件三角地はいわゆる副都心である池袋に近く、附近一帯は商店住宅等人家の密集地帯であること、近江桃蔵の前記建物の周辺には本件三角地を除いても尚多少の空地が存在することが認められ、また、……によると、控訴会社は、本件土地を東京都水道局の指定工事店の事務所として使用しており、そのためにも、本件三角地は、同会社の営業上必要な土地であることが認められる。

以上認定の事実関係に基づいて考えるに、本件三角地は、僅か四・五平方メートルに足らないものであるとはいえ、前記三九番の一〇の借地上の建物の居住者にとつては、通風採光等健康管理上のみならず、家庭生活を営む上においても、便宜であることを窺うに充分であるけれども、右三角地を三九番の一〇の土地と一括して利用しなければ著しい損害を蒙る程緊密な関係を有するとは認められない反面、本件三角地は、控訴会社にとつてもまた営業上重要な土地であることが明らかである。してみれば、被控訴人らが本件三角地の借地を喪うことにより生ずべき不利益は社会生活上これを容忍すべきものと認めるのが相当である。そうだとすると、本件三角地については建物保護法第一条はその適用がなく、近江桃蔵はその賃借権をもつて第三者に対抗できないことは前説示の理由により明らかであるから、被控人らの右主張は採用できない。

(三淵 伊藤 土井)

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